文献チェック 春名苗(2021)「ケアマネジャーの虐待発見と通報の実際」

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京都市内全居宅へアンケート調査

回収率57.9%回答数254 うち有効数222(有効回答率50.5%)

事業所の代表1名に回答依頼

 

要点

Q:「虐待ケースを市か地域包括支援センターに通報するタイミングはいつですか」

66.7%が「虐待を疑うようなことがあれば通報する」

33.3%が「虐待と確信できれば通報する」

(「通報しない」は0%)

 

自由記述抜粋

「相談しても具体的なサポートはない。傾聴で終わる。虐待と決定されるような深刻な状態とならないと誰も動いてくれず、ケアマネジャーが悩みを抱えることになるか、さらに重責に苛まれる」

「通報義務があるため通報しますが、その後の対応で通報してよかったと思えることは稀です。緊急性がないと判断されたとき、介護サービスをもっと使うように助言されることが多々ありますが、サービスが導入できていれば行っており、まったくもって役に立つ助言ではありません

 

☆佐伯所感

有効回答率50.5%で、事業所の代表1名のみ回答、となると相対的に虐待への意識高めな人たちに偏っていると思われる。「虐待疑いレベルで通報する」人が66.7%というのは、全員から回答を取ったらもう少し下がると思う。

虐待と確信できるまで通報しない人が33.3%ということで、通報率向上を考えるならここが焦点化する層になる。前者のグループを「疑い通報層」として後者のグループを「確信通報層」とすると、「疑い通報層」は、通報時に虐待かどうかの判断は不要で疑いレベルで通報努力義務がある、ということを知識レベルで知っている人が多いはず。ただ、自由記述で出てきたように、通報してガッカリ体験を繰り返して、「確信通報層」に移行した人もいるんじゃないかなと。

 

個人的にはこの「通報してガッカリ体験」を重視していて、その原因が何かといえば、包括職員の予防的介入意識の低さ、アセスメント力の低さ、になると考える。

それは一旦さておき、「確信通報層」と「通報してガッカリ体験」の関連を知りたい。伊藤薫(2007)「在宅高齢者虐待通報に関する要因の研究」で通報群と非通報群を分けてクロス集計をしていて、その結果は臨床的にもとても参考になるのだが、ガッカリ体験には触れていない。そこの関連性の調査は今後の課題なんだろう。

 

全体として一番インパクト大きいのは、上の自由記述の二つ。「ホントそれな」という感じ。通報してガッカリ体験などを含めた、「包括との相互作用因子」に着目した研究が必要だろう。